G1ラボ - デジタルマーケティングを研究する為の備忘録

これからのデジタルマーケティングは技術と方法に加え、OfflineとOnline、HardwareとSoftware。6軸+αの時代を生きるデジタルマーケッター

理想は「スティール」。求めちゃいけないデジタルマーケティング。

デジタルマーケティングの会議において常に心がけていることがあります。それはマーケティングはユーザーに「求める」事をしてはいけないってことですね。求めたらその段階で「ステップ」が1つ増えますよ。例えばこう考えるとわかりやすいです。これはECサイトで酒を購入してもらいたい会社のケース。

<「求める」ケース>

1.ECサイトにアクセスしてもらいたい

2.アクセス後にユーザー登録をしてもらいたい

3.お酒を購入してもらいたい

 上記は、売り手の「精神的」なゴールが3つ存在しています。1つ目はECサイトへのアクセス、2つ目はメンバー登録、3つ目はお酒を購入してもらう。それぞれのゴールに対してそれぞれの予算を投じて頑張って1つ1つのゴールをクリアしていく必要があります。しかしこれはゴールではなく、実質は「壁」なんですよね。もっと言えば「関所」です。ユーザーにお酒を買ってもらうために、行動的にも精神的にも3つの壁であり関所をユーザーにクリアしてもらう必要があります。これは結構大変ですよ。

街中で呼び込みをしているお兄ちゃんになったつもりで考えてみます。

「すみません!ちょっとお時間いいですか!お酒のECサイトにアクセスしてもらいたいんですよー。もしアクセスしてくださったらノベルティあげますんで!」「あ、アクセスありがとうございました!あのー、もう1ついいですかね?もしよろしければユーザー登録して欲しいんですよ。もしユーザー登録をしてくださったら今ならゴールドメンバーになれるんです!お願いします!」「ユーザー登録あざーーーっす!もう1つ!もう1ついいですかね!?もし、今お酒を買ってくれるなら、20%のディスカウントクーポンを差し上げます!」

 ・・・どうですか。超面倒でしょ?

買ってもうまでに何回も「お願い」をしなければいけないわけですが、ユーザーにとってはこれは相当な負担です。3つの行動をユーザー自身にしてもらう必要がありますが、まあほとんどのケースでは「いや、結構です」とアクセスしてノベルティをもらって終わりでしょう。「求める」ということはそれだけ大変なことなのです。求めることは「心の奉仕」をユーザーに求めるわけですから、私たち自身が相当信頼されてなければ難しいことです。

 そういう観点も踏まえ、上述の「ECサイトでお酒を買ってもらいたい企業」のケースにおいては、私たちは議論のポイントを「お酒を買う」のみにゴールを設定します。アクセスをしてもらう事やメンバー登録をしてもらう事はただのステップの扱いにして、最重要課題とはしません。これ、一般的に言われていることでとても当たり前のことですが、本当に大事なことなのです。

私自身も時折そうなりかけることがあるのですが、「お酒を買う」だけにゴール特化させていても、いつのまにかメンバー登録を簡単に行うことなどに集中しすぎてゴールが複数生まれそうになってしまっているのです。

ゴールが複数になれば、議論もぼやけるし、それで方向性が出てしまったら予算もゴールの数だけ増えていきます。そして更に言えばそんなチームにおいては、複数あるゴールのうちの1つのゴールの中でも複数の小さなゴールが更に登場してきます。ゴールの無限増殖です。そうしていくうちに、予算も比例して増えていきますので、結局費用対効果がどんどん薄くなっていくわけですね。だから絶対にゴールは間違えてはいけないし、最初に決めたゴールからぶれではいけないのです。

 じゃあ、何が理想なのかと言えば、理想的なイメージとしてはこんな感じです。

「お酒を飲んで幸せな時間を過ごしたいから、ECサイトにやってくる。そんな時間を過ごしたいから買いたい。買いたいからメンバー登録のわずらわしさはあまり気にならない」

文字にして見ると、当たり前のことなのです。しかし意外とできていないことなのです。お酒を飲むというのは「お酒を飲む時間を過ごす」という事ですね。お酒を飲む事を目的とするか、お酒を飲んで素敵な時間を過ごす事を目的とするかでは似て非なる価値があり、心理的な部分でも大きな差がありますね。心理的にぐっとユーザーの心をつかむ事ができれば、メンバー登録というものは壁や関所の類ではなくなり、普通にプロセスを通過してくれるようになります。

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ちなみに、このような話をしていると、「MAツールはどこのものを使えばいいですか」という質問を受けることもありますが、実際のところ私の言っているポイントは優れたMAツールを使っているかどうか・・・とは全く関係ありません。コンテンツが大切なので。

・・・というのも、昨今のMA系の各サービス会社の提案などをみていると、各工程のユーザーの動きの見える化を実現し、ABテストなどでユーザーにより近づく努力をし、ターゲットとなりそうなユーザーを顕在化させるるという動きがサービスの基本動作になっているのかなと感じます。しかし、どんなに優れたMAツールや集客ツールを使っても「買う気がない」ユーザーを「買う気」にさせることはできません。これらのツールは「買いたい/買ってもいいかな」と考えるユーザーをしっかりと連れてくる役割を果たすだけであり、「翻意させる」という部分には特段の強みを持っているわけではありません。またMAツール依存の問題点は、部分効率化をMAXにする代わりに、全体効率化を悪くしてしまうケースがあるという事です。本来は無視してもいいステップすら見える化して効率化を促してくるので、マーケティングの経験がない人が使うと部分効率化を追求しすぎて、本来のゴールから遠く離れてしまうのでそこも注意です。

 大切なことはサービス・商品・説明力の3つが一致団結して「ユーザーのハートを盗む」ことになります。Facebookの「いいね!」よりももっと深いところにある「憧れ」による「いいね!」ですね。アサヒスーパードライが登場した頃、サラリーマンがビールをごくごく飲んで「仕事上がりのビアガーデンの楽しい時間」をCMで見せていました。

「すぐに自分もそんな時間を過ごしたい!」とユーザーに思わせる事ができるかどうか。ユーザーの心を盗んで話さない「スティール」の基本を忘れてはいけないと会議の中でも気をつけて議論のオーガナイズを行なっています。